第283号  28年3月号  大川 澄雄

 ようやく訪れた春、皆様いかがお過ごしでございますか。今冬は誠に雪の少ない近頃にない気候でございました。農家に致しますと、何か悪い予感も致しまして、降る時には降る、それが農家の日暦でありますが、どうか良い方に向って頂きたい、そう念じております。
 どうか皆様、この季節の変わり目、どうぞお身体ご自愛下さいませ。

 津軽の名峰「岩木山」。それは私共山仲間が猟に遊びに、こよなく愛した山でありまして、冬、猟期になりますと毎年欠かさず35年間、通い続けている誠に大好きな「お岩木さん」であります。楽しい事も沢山ありましたが不思議な事もありました。岩木山の山容の写真を撮ると不思議な事が起こる、仲間のジンクスでありました。20年前にも写真を撮った仲間が山で遭難して命を絶ったこともありました。この話は本当にあった事であります。

ようやく訪れた春の陽気を、またまた寒くする不思議な体験・・・・。
 もう10年にもなりましょうか、まさにリーダー的存在だったSさん、岩木山から降りて来て道路から写真を撮ったのです。そして村で「2月になったら岩木山に行こうな~」と本当に楽しみにしていたSさんと話ししながら別れたのですが、それから程なく突然亡くなったのでありました。それは誠に無念の死でありました。それから不思議な事が始まったのです。
 その日に撮影した写真を息子さんが後で焼き付けしたのですが、何となんとその写真全部血の色に変色していたそうです。これが事の始まりでした

 Sさんが亡くなって仲間と岩木山に出掛けた時の事、二台の車で行ったのですが、一台の仲間の車がとにかく線香臭いと言うのです。猟に立っていても獲物がくるっと逸れて行ってしまうと言うのです。本当に誰かが横に立っているようだと・・・・。
 その話題に終始しつつ帰路についたのですが、そのSさんの奥さんから電話があり、「おめえ達、今朝岩木山に行ったべ、村を出る頃だったと思うが、家の中を叩いたり揺すったり、そりゃ騒がしたんだぁ。」何と時間もぴったり、きっと、Sさんが一緒に山に行きたかったのでは、いや乗って居たのかも・・・。

 その窮(きわ)め付きの不思議な出来事は、Sさんの忌明けの法要の時でありました。私の全く拙歌(弔歌)でありましたが10首仏壇の前で奉読した時、突然に起こったのであります。私には何が起こったのか仏壇に向かって居りましたので分かりませんでしたが、物凄い力で後ろから私に抱き付いてきたのです。それはSさんの娘さんでありました。
 話によりますと、娘さんは別の部屋にいたのですが、突然血相を変えて部屋を走り出し私に抱きついたとの事。その顔はまさにSさんの無念の顔だったそうで、娘さんはその場で気を失って倒れてしまいました。それは、何としても御礼が言いたくて娘さんに乗り移ってきたのでしょう。山と猟を心底愛したその執念に圧倒された、とても信じがたい不思議な出来事でした。

 この季節になりますと、どうしてもその事を思い出してしまいます。

今月の一句
雁さりて 水面に浮かぶ 白き雲