第226号  23年6月号  太田 稔

 「目に青葉 山ほととぎす 初鰹」まさに初夏を迎えたこの季節、皆様方におかれましてはますますご健勝の事と存じます。こちら秋田では、遅ればせながら山々が緑に萌え、ようやく風薫る頃となりました。
 
 今、田んぼでは5月に植えられた淡い緑色の「あきたこまち」の早苗が、そよ風に揺られながら嬉しそうに踊ってます。そんな光景を眺めていますと、春作業の疲れも吹っ飛び、いつの間にか口元が緩んでしまいます。と言いますのも、今年はスタートの早春から大変な天候だったからに他なりません。

 通常ならば季節とともに暖かくなり、春の日射しで田んぼも乾くものなのですが、今年に限っては3日雨で1日曇り…の、鬼のような天候が延々と続く状況でして、それでも田んぼが乾くのを我慢して待ちはしたものの、とうとうタイムリミット(苗が大きくなり、田植え日から逆算した場合の限界点)を迎え、無理矢理?耕起・代掻き・田植えと作業を進めた訳です。ですから察していた通り、というか案の定、田植え機の車輪は地中に深く刺さり、エンジンは苦しそうに唸りながら頑張ってはいるものの、ちっとも前に進まず、挙げ句にはとうとう「カメ」になってしまう事件が頻発したのでした。
 この「カメ」とは、以前もお話しいたしましたが、農作業機械が田んぼにぬかって身動きができなくなり、手足(車輪)をバタつかせ、もがいている状況が、いかにも「カメ」の動きに似ている事から、ここ大潟村では「トラクターがカメになった」とか「田植え機のカメを上げてきた」などと言います。

 そもそも、ここ大潟村は干拓地であり、以前は八郎潟という湖の湖底でして、場所によっては泥が40メートルも堆積しているそうです。当然有機質に富み、美味しいお米が出来る訳ですが、この軟弱地盤は農家泣かせでもあった訳です。それでも一生懸命毎年、少しづつ田んぼに手を掛け、最近ではこの「カメ」の話も、とんと聞かなくなっていました。しかし、今年は冒頭のような天候でして、あちこちで田植え機が「カメ」となり、「カメ上げ」請け負い業者が「カメ」を救出に、せっかく植えた田んぼの中をお構いなしにショベルカーで入って行って引っ張ったり、クレーン車が田植え機を無造作に吊り上げたりと、てんてこまいで東奔西走していたのでした。

 こんな状況でしたので、田植えが終わった後の達成感はひとしおであり、涙なくしては語れない?今年の春なのでした。当然ながら、お約束の「早苗振り」は、気の合う仲間たちと春作業をねぎらいながら、時を忘れて美味しいお酒を頂いたのでした。

 けれど、いかにつらい春作業であれ、田んぼを作れるというのは、本当に有難い事です。「東日本大震災」で、農業を断念せざるをえない人々が大勢おられるのですから。この方々の気持ちは、同じ農業を営む者として痛いほど分かります。どうか一日も早い復旧・復興を心から祈り、願っております。       

今月の一句
夕光(ゆうかげ)や あかあか染める 早苗田も