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| 第123号 平成14年12月1日 発行 |
| メンバーより一言 (太田 稔 ・ Minoru Ota) |
| 「彼女は魔物よ、俺らの心を読んで優しく微笑んだり、まるっきり
そっぽを向いたり、時には暴力的に挑んだり、肢体を翻して見せつけたり、俺にはまだあいつの心がさっぱり読めねえ・・・」彼はそう言うと眉間に皺を寄せ、煙草の煙りをゆっくりとゆるがし、水平線に消えかかる夕日を見つめながら、寂しそうに呟いた。 泳ぐ事だけに生まれてきたような彼女の肢体には一切の無駄もなく、そのスピードは、時に時速160kmにもなるという・・・それは、誰しもよく知るクロマグロである。 仕事の関係で知り合った彼は、本州最北端の青森県は大間に住み、世界一の鮪を追う一本釣りの漁師だった。一本の糸に命を賭けて挑む大間の漁師には誇りがある。それは魚網を使った、一般的な「漁」は恥であり、鮪に限らず全ての魚を一本釣りで釣り上げて生計を立てているのである。彼らは荒れ狂う津軽海峡の中、木の葉の如く揺れる船に一人で乗り込み、たった一本の糸に命を賭けている。それは本当の意味で魚との一対一の勝負、いや戦いであり、その姿勢は魚に対しての敬意の高さを感じざるを得ない。 ある漁師はその鮪のかかった針が船べりで外れて頬を貫通し、またある漁師は巻きついた糸に指が千切れたという。そんな壮絶な世界が、まだこの日本に残っている事に私は驚愕し、日頃の些細な悩みやうっぷんなどは心から消え去るとともに、安寧な生活に"喝"を入れられた気がした。また、彼の熱い語りを聞いているうち、忘れていた真の男としての誇り、情熱、そしてロマンを感じた。それは、本来日本人にある潜在的な狩猟民族の"血"が騒いでいるのかもしれない。 津軽海峡ではこの時期、鮪は秋刀魚や烏賊の群れに狂ったように襲いかかり、数百キロの肢体を空中に踊らす。それは数百万、いや、時には数千万円という獲物が目の前で宙を舞うという壮絶な世界である。しかし、年に一本の鮪さえも獲れない漁師もザラであり、そういった意味では確かに博打的でもあるが、その勝負に勝った人間にとっては名誉であり、捕った者だけが手にする事が出来る内蔵と第二背びれが勲章なのである。そして、その内臓を料理して奴の健闘を讃え、ヒレを神棚に供え感謝する。大自然への感謝、それは私ども農家にとっても同じ事であり、全て諸行無情そして輪廻転生の世界なのであろう。 その夜、漁から帰った彼は飯を喉に押し込みながら「あいつは賢い、だから餌は生きのいいやつじゃねえと駄目だ、追われて逃げねえ餌はいねえ」誰に語るでもなく呟き、表舞台の華やかさとは相対して、地味ではあるが大切な餌を確保の為に、休む暇なくまた船を出す。そして今日も荒れ狂う津軽海峡で、一本の糸に伝わる"命"の衝撃に挑んでいる。 |
| ──根雪来て 省みる日の 農日誌──こまちの里 |